ゴルトンボードと正規分布
釘の列に玉を落とすと、山型の分布ができます。玉を 1 個ずつ落とすときの落ち先は そのもので、段数を増やすと正規分布に近づきます。ここでは玉を 1 個ずつ早送りで落とす場合と、玉同士がぶつかり合うほど詰め込んだ場合を、 適合度検定で区別します。
1 個ずつ落とすときの厳密な分布
段の釘を通る玉は、各段で左右のどちらかに 1/2 ずつで分かれます。右に折れた回数を とすると、落ちる樋の番号がそのまま です。
平均は 、分散は です。これは近似ではなく厳密な値で、シミュレーションはこの分布に一致しなければなりません。
盤面
玉は釘の上で跳ねる時間がばらつくため、各ティックで確率 0.5 で 1 段下に進み、そうでなければその場に留まります。1 つのセルに入れる玉は 1 個までで、行き先が両方とも埋まっている玉は進めません (この状態を橙色で描いています)。
投入 0 / 500 個、到達 0 個、盤上 0 個、詰まった回数 0 回。
2 つのモードの分布
下のグラフは 4000 個を最後まで落としきった結果です。灰色の棒が厳密な二項分布、破線が正規近似です。単発は棒にほぼ重なり、干渉ありは中央が削れて裾が持ち上がります。
観測度数 と、厳密な二項分布から決まる期待度数 を Pearson の 統計量で比べます。期待度数が 5 未満の樋は隣とまとめてから計算し、母数を推定していないので自由度は (まとめたあとの区間数) です。
| 指標 | 理論値 | 単発 | 干渉 |
|---|---|---|---|
| 平均 | 6.000 | 5.960 | 5.944 |
| 分散 | 3.000 | 2.956 | 3.756 |
| 最大 CDF 差 | 0 | 0.0165 | 0.0397 |
| 統計量 | — | 13.4 | 157.5 |
| 自由度 | — | 10 | 10 |
| 値 | — | 0.2043 | 1.08e-28 |
| 詰まった回数 | 0 | 0 | 840 |
| 判定 (有意水準 1 %) | — | 棄却できない | 棄却 |
単発は 値が大きく、二項分布と矛盾しません。干渉ありは玉数を増やすほど 値が 0 に落ちます。「別シード」で何度引き直しても、この向きは変わりません。
なぜ干渉すると崩れるのか
二項分布が出るための仮定は、各段の左右が確率 1/2 で、しかも互いに独立、という 2 点だけです。玉が詰まると 空いている側にしか行けない ため、その 1 回の分岐は確率 1/2 ではなくなり、しかも「どちらが空いているか」は他の玉の位置で決まるので、独立性も同時に壊れます。
混雑は中央で最も強く起きます。玉が集まるのは中央だからです。結果として中央から押し出された玉が裾に回り、分布は二項分布より平たくなります — 分散が より大きくなるのがその現れです。投入間隔を広げるほど詰まりが減り、分布は二項分布に戻ります。
なお、釘の上での滞留そのものは分布を変えません。滞留は「いつ着くか」を変えるだけで「どこに着くか」は変えないからです。滞留がなければ全部の玉が毎ティック 1 段ずつ落ち、同じ段に 2 個並ぶことすらありません。滞留は、玉同士を出会わせるための仕掛けです。
二項分布から正規分布への誤差
段数を増やすと二項分布は正規分布に近づきます (de Moivre–Laplace の定理)。整数 を区間 とみなす連続性補正を入れて、両者の CDF の最大差を測ったのが下の表です。
| n | 最大 CDF 差 | n × 最大 CDF 差 |
|---|---|---|
| 8 | 4.125e-3 | 0.0330 |
| 16 | 1.663e-3 | 0.0266 |
| 32 | 8.637e-4 | 0.0276 |
| 64 | 4.258e-4 | 0.0272 |
| 128 | 2.113e-4 | 0.0270 |
| 256 | 1.063e-4 | 0.0272 |
| 512 | 5.302e-5 | 0.0271 |
右の列がほぼ一定なので、誤差は 程度で減っています。Berry–Esseen の一般の評価は ですが、 の二項分布は左右対称で歪度が 0 なので、Edgeworth 展開の 項が消え、連続性補正と合わせて まで速くなります。
ここで使った と の上側確率は、どちらも不完全ガンマ関数 の級数と連分数から倍精度いっぱいまで計算しています。検証する側が別のシミュレーションになっていないという意味で、この表は厳密です。
ランダムサンプリングの収束の速さそのものについては Monte Carlo 収束比較 も参照してください。